インボイス制度が令和5年10月に開始されます。
対応を迷っているフリーランスの方もいるのではないでしょうか。
先日、インボイス制度について事務軽減の朗報がありました。
経理事務が簡素化されたので、対応を検討している私のようなフリーランスにもとてもうれしい内容です。
改正の詳細は、令和4年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改革大綱に書かれています。
新NISAや電子帳簿保存法など話題が盛りだくさんな大綱ですが、今回は、インボイス制度の改正内容についてわかりやすくお伝えしましょう。
インボイス制度をおさらい
税制改革大綱の中味を見る前に、インボイス制度を簡単に復習しましょう。
適格請求書や消費税の仕組みなど基本的な内容のおさらいと、免税事業者にとって何が問題か簡単に解説します。
適格請求書とは
インボイスとは、適格請求書のことです。
適格請求書では、次のように請求書にTからはじまる13桁の登録番号が記載されています。
このほか、スーパーやコンビニでは記載内容が簡素化された簡易記載請求書が発行されます。
レシートに登録番号が入ったものです。
消費税の仕組み
次に消費税の基本的な仕組みです。
消費税額は、受け取った消費税額から支払った消費税額を差し引いて計算します。
この図で、個人事業主の例を考えてみましょう。
受け取った消費税1,000円 ー 支払った消費税200円 = 納税額800円
差し引いた800円が、消費税として申告・納税すべき額となります。
免税業者が取引を見直されてしまう理由
インボイス制度は、フリーランスなど小規模な個人事業者に大きな影響を与えます。
令和5年10月1日以降は、インボイス登録業者以外は適格請求書が発行できなくなるのが原因です。
適格請求書は、仕入れた消費税額を証明する書類なので、これがないと差し引いて納税できません。
下記の表をご覧ください。
図の中央の個人事業主は、免税事業者から仕入れた消費税額を控除できなくなります。このため、A社としては免税業者と取引するよりも、適格請求書を発行できる事業者と取引する傾向が強くなります。法人の場合も同様です。
課税制度の違い
消費税の経理・申告は大変複雑ですが、フリーランスには簡易課税という便利な制度があります。
この制度を使うことで、毎日の経理の煩雑さから解放されるので便利です。
ただし、事務は極めて簡単ですが、納税額が押さえられるかどうかはケースバイケースによります。
税負担よりも事務処理の簡単さを求める人におすすめの制度です。
ここでは、消費税の基本原則である原則課税と簡易課税について解説します。
原則課税
原則課税とは、受け取った税額から支払った税額を差し引くことです。
前述の消費税の仕組みで説明したとおり、次のような数式を積み上げていきます。
売上にかかる消費税10,000円 ー 仕入れにかかる消費税7,000円 = 納税額3,000円
この方法では、毎日の商取引でかかる仕訳を、1件ずつ帳簿に記入(会計ソフトに入力)していかなければなりません。
税額の計算は正確ですが、事務処理量が多く、消費税がかからないものや8%・10%の区別など判断が難しい場合があります。
また、値引きや振込手数料を差し引いて入金があった場合は、インボイス返還請求書を発行する必要があるのも特徴です。
簡易課税
簡易課税とは、業種によって決められた率(みなし仕入率)を計算することによって、事務を簡素化する制度です。
毎日毎回の取引ごとに消費税額を計算する必要がなく、一年分をまとめて計算できるのがメリットとなります。
業種ごとのみなし仕入率を見てみましょう。
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業等)小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) | 80% |
第3種事業(製造業等)農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建設業、製造業など | 70% |
第4種事業(その他)飲食店業など | 60% |
第5種事業(サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
ライターやイラストレーターなどのフリーランスは第5種事業となるので、年間の売上にかかる消費税の50%を差し引いて納税すれば大丈夫です。
年間の売上800万円売上にかかる消費税額80万円の場合
売上の消費税額80万円ー仕入にかかったとみなす消費税額(80万円×50%)=納付税額40万円
納付すべき税額は40万円となります。
(図では簡便に、受け取った消費税にみなし仕入率を引いた割合を乗じて算出しています。)
申告時に計算するだけなので、とても簡単です。
簡素化された税制改正の内容
ここから、フリーランスが経理しやすくなった改正内容を3点説明します。
免税事業者が課税事業者になる必要はありますが、簡素な経理処理が可能です。
ぜひ押さえておきましょう。
1.消費税の納税額は売上にかかる税額の2割でよい
税額控除後の経過措置制度とは、消費税の納税額を計算する際に、売上にかかる消費税額の2割で良いとする制度です。
これまでも、業種によって一年分の納税額を計算できる簡易課税制度がありましたが、さらに納税額を抑えられる可能性があります。
たとえば、売上が800万円で売上にかかる消費税が80万円だと、納税すべき額は16万円となります。
売上にかかる消費税額80万円 × 経過措置率20% = 納税額16万円
この制度が使えるのは、2年前の売上が1千万以下の免税事業者が対象で、3年間の経過措置です。
簡易課税制度では、ライターやイラストレーターなどのフリーランスはみなし仕入率が50%でしたが、この制度を使えば20%とさらに低く抑えることができます。
ただし、原則課税で仕入れが80%を超える場合や、簡易課税の第1種事業者を適用する場合は、この制度を使わない方が納税額を抑えられるので注意しましょう。
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業等)小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) | 80% |
第3種事業(製造業等)農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建設業、製造業など | 70% |
第4種事業(その他)飲食店業など | 60% |
第5種事業(サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
2.小規模取引(1万円未満)はインボイス請求書が不要
原則課税の場合で、売上や仕入れなどの取引が一万円以下の場合は、インボイス請求書が要らなくなりました。
ただし、2年前の売上が1億円以下の小規模事業者で、6年間の期間限定です。
これまでは、原則1円単位の取引でもインボイスが必要でしたが、細かい経理事務が不要になるのは大きなメリットでしょう。
3.返還インボイス(1万円以下)が不要
これまでは、次の場合でも返還インボイス請求書が必要でしたが、これが不要とされました。
・請求書発行後の端数値引き
・売り手負担の振込手数料
インボイス請求書の発行や修正は、発行者しかできません。
このため、請求書発行後に値引きなどがある場合は、請求書が訂正するか値引き分の請求書を新たに発行する必要がありました。
売掛金が口座に入金される際に、振込手数料が引かれていることはよくあります。
この場合でも、返還請求書を発行しなくても良いのはとても便利です。
その他
3つの改善点について説明しましたが、細かい点についても補足しておきます。
インボイス制度への登録日数などが緩和されました。
これまで、令和5年10月にインボイス制度を利用するには、原則令和5年3月31日までの申請が必要でした。
しかし、改正後は3月末を過ぎても申請が可能となります。
インボイス登録を迷っているフリーランスには時間的な余裕が生まれました。
また、制度発足後の取扱も緩和されています。
インボイス制度への登録や取り消しは30日前までに書類提出が必要でしたが、これが15日前に緩和されたのも細かい改善点です。
まとめ(免税・簡易課税・経過措置のどれがよいかは自己判断で)
今回は、インボイス制度の改正点について解説しました。
主に、小規模なフリーランスの経理を簡素化する内容となっています。
しかし、これらの改正はこれまで免税事業者だったフリーランスが、課税事業者に移行することを想定しています。このまま免税事業者でいく場合には影響がありません。
また、課税事業者になる場合は、次の3種類のいずれかを選ぶ必要があります。
- 原則課税
- 簡易課税
- 売上消費税額の2割の経過措置
仕入れの少ないライターやイラストレーターであれば、経理処理の簡素化を考えると、2割の経過措置が有利となるでしょう。(簡易課税のみなし仕入率は5割のため)
ただし、特定の年に大きな備品の購入など経費が多くかかる場合、みなし仕入率よりも多く消費税を支払っているので、原則課税が有利な場合があります。
課税方式の選択は、将来の予測も含め、慎重な判断が必要です。
今回の記事が、インボイス制度に悩むフリーランスの参考となれば幸いです。
TAKAHIRO FUTAKADO
最新記事 by TAKAHIRO FUTAKADO (全て見る)
- 【2023年8月時点】10月からインボイス制度開始前に登録と取りやめの方法を解説 - 2023年8月24日
- FX少額投資のおすすめ証券会社3選!初心者でも安心のドルコスト平均法や1000通貨取引も解説 - 2023年2月21日
- 2024年から紙保存が実質OKに!フリーランスのための電子帳簿保存法をわかりやすく解説 - 2023年1月31日
コメント